福田昭のセミコン業界最前線

「底を打ち」はじめた半導体市場

半導体市場の実績数値から回復の兆しが見えはじめる

世界半導体販売額(月次、過去3カ月の移動平均)の前月比と前年同月比の推移(2017年11月~2019年7月)。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

 半導体市場の減速が止まる。そのような兆しが見えてきた。2018年11月から続いてきた各月の販売額実績の減少が、2019年5月以降は増加に転じつつある。「2019年7月以降(2019年下半期)に回復」というシナリオが、現実味を帯びてきた。

 半導体業界では市場規模の実績と予測については、半導体メーカーの業界団体であるWSTS(世界市場統計)が算出した数字を使うことが定番となっている。このWSTSは毎月、半導体の販売金額を過去3カ月の移動平均値として発表してきた。

 本コラムが2019年3月27日の記事(「高転び」しつつある半導体市場)で述べたように、WSTSが発表してきた毎月の販売額は、直近では2018年10月にピークを迎えた後、前月比ではマイナスを続けてきた。2018年11月以降は6カ月連続で前月比がマイナスとなった。

 とくに厳しかったのが2018年12月~2019年1月で、前月比が3カ月連続で7%強のマイナス成長となっていた。この3カ月で前年同月比の数値も大きく減少し、プラスからマイナスへと転じた。2018年11月の前年同月比9.8%増から、2019年2月の同10.6%減へと20ポイントもの減少となった。

 しかし前月比のマイナスは2019年3月以降は緩やかになり、2019年5月には7カ月振りに前月比でプラスを記録した。前月比1.9%増である。続く同年6月には同0.9%減とマイナスになったものの、同年7月には同1.7%増と再びプラスに転じた。前年同月比のマイナス幅も2019年4月以降は15%前後の減少を維持しており、下げ止まりの傾向が見えてきた。

世界半導体販売額(月次、過去3カ月の移動平均)と前年同月比の推移。出典 : WSTSおよびSIA(米国半導体工業会)

下方修正を繰り返した2019年の半導体市場予測

 下げ止まりの傾向は見えてきたものの、2019年の世界半導体市場はほぼ確実に、2桁のマイナス成長となりそうだ。2018年秋から2019年夏にかけて、業界団体や市場調査会社の予測値は、下方修正を繰り返してきた。

 WSTSは毎年春と秋に、半導体市場の予測値を発表している。昨年(2018年)秋の予測は2018年11月27日に発表された。このときにWSTSは2019年の世界半導体市場を前年比2.6%増と予測した。2018年の同15.9%増に比べると成長率は大きく低下するものの、プラス成長は維持すると見た。

 しかし2019年2月20日にWSTSは、2019年の成長率をマイナス3.0%へと下方修正した。さらに2019年6月4日に発表した春の予測では、2019年の成長率をマイナス12.1%へと一段と下げてきた。

 市場調査会社の予測も下方修正されている。市場調査会社のGartnerが2019年4月2日に発表した2019年の世界半導体市場の成長率はマイナス3.4%である。この予測を約3カ月後の同年6月28日には、マイナス9.5%へと下方修正した。

 そして集積回路(IC)に限定した予測値だが、市場調査会社のIC Insightsは2019年5月21日にマイナス13%、さらに同年8月7日にはマイナス15%と2ポイント下げた成長率を公表した。なおWSTSは同年6月28日に発表した市場予測で、2019年の集積回路市場の成長率をマイナス14.3%と予測している。

2019年の世界半導体市場に対する成長率予測の変化。日付は発表日。WSTSは業界団体、GartnerとIC Insightsは市場調査会社

地域別では米国、製品別ではメモリの市場が縮小

 WSTSは2019年の半導体市場について、地域別と製品分野別の予測を2019年6月4日に改訂した。これらの予測値を前回(2019年2月20日)および前々回(2018年11月27日)と比較してみよう。

 地域別とは、「米国」、「欧州」、「日本」、「アジア太平洋」の4つの地域である。すべての地域で前々回よりも前回の成長率が低くなり、今回(6月4日)の予測で成長率はさらに低下した。すなわち下方修正が繰り返された。そして、すべての地域がマイナス成長との予測になっている。

 とくに厳しいのが米国地域で、WSTSは前年比23.6%減と予測した。前々回の予測値である同1.4%増からはマイナス25ポイントもの下方修正となっている。アジア太平洋地域もかなり厳しい。前々回からの下方修正は12.7ポイントである。今回の予測では前年比9.6%減となった。

地域別の半導体市場に対する成長率予測の変化。WSTSの公表値を筆者がまとめたもの

 製品分野別とはおもに、「アナログ」、「マイクロ(マイクロプロセッサやマイクロコントローラなど)」、「ロジック(ASSP、ASIC、FPGAなど)」、「メモリ」の4つの分野である。6月4日(今回)の予測では、これらの分野すべてで成長率が下方修正された。そしてこれらの分野すべてでマイナス成長を予測した。

 もっとも厳しいのメモリ分野である。前年比30.6%減と予測した。前々回からはマイナス30.3ポイントもの下方修正である。そのほかの分野は、アナログが前年比5.0%減、マイクロが同1.1%減、ロジックが同4.0%減と1桁減にとどまっている。

製品分野別の半導体市場に対する成長率予測の変化。WSTSの公表値を筆者がまとめたもの

DRAM市場はマイナス38%、NAND市場はマイナス32%に

 製品別の成長率予測をもう少し詳しく見ていこう。市場調査会社のIC Insightsは2019年8月7日に、WSTSが分類した33種類の半導体IC製品について2019年の成長率予測を発表した。33種類の製品のなかで2019年に市場(金額ベース)が伸びるのはわずかに8品目である。そのなかで成長率が10%以上になるのは、3品目しかない。

 もっとも伸びるのは産業/その他用の特定用途向けICで、成長率はプラス38%と非常に高い。ついでディスプレイドライバICがプラス19%、PLD(FPGA)がプラス10%と続く。

 33種類の製品のなかで成長率がゼロまたはマイナスとなるのは、25品目である。ゼロ成長あるいは1桁のマイナス成長を予測するのが16品目、2桁のマイナス成長を予測するのが9品目となっている。

 成長率がもっとも低いのはDRAMで、マイナス38%と予測する。ついでNANDフラッシュメモリがマイナス32%と低い。それからSRAMがマイナス18%、4/8bitマイクロコントローラがマイナス15%、ゲートアレイがマイナス14%、民生の特定用途向けアナログがマイナス14%と続く。

半導体ICの品目別成長率予測(金額ベース)。市場調査会社のIC Insightsが2019年8月7日に発表したもの

半導体市場は4,000億ドル強、メモリ市場は1,000億ドル強と予測

 ここからは成長率でなく、金額の予測値を示す。WSTSが2019年6月4日に発表した半導体市場予測から見ていこう。

 2019年の世界半導体市場は前年比12.1%減の4,120億8,600万ドルと予測した。地域別ではアジア太平洋がもっとも大きく、同9.6%減の2,556億6,600万ドルである。ついで米国が同23.6%減の787億4,100万ドル、その次が欧州で同3.1%減の416億900万ドル、さらに日本が同9.7%減の360億6,900万ドルとなる。円ベースの日本市場は前年比10.0%減の3兆9,733億円と予測する。

世界半導体市場の推移(2001年~2019年)。WSTSの発表資料から筆者がまとめたもの

 主要な製品分野別ではメモリがもっとも大きく、前年比30.6%減の1,095億9,000万ドルとなる。ついでロジックが同4.0%減の1,049億1,200万ドル、それからマイクロが同1.1%減の665億1,900万ドル、アナログが同5.0%減の558億4,600万ドルと続く。

主要製品別の金額推移(1999年~2019年)。WSTSの発表資料から筆者がまとめたもの
WSTSが2019年6月4日に発表した2018年~2020年の半導体市場推移。2018年は実績、2019年と2020年は予測

 市場調査会社のGartnerは2019年7月22日の公表値で、2019年の世界半導体市場は4,290億ドルになると予測した。2018年の4,750億ドルから、9.6%のマイナスである。

 市場調査会社のIC Insightsは、2019年7月31日に製品別の金額予測を発表している。WSTSの分類による33品目のなかで、もっとも金額が大きいのはDRAMである。前年比37.6%減の620億ドルになると予測した。ついで金額が大きいのはPC/サーバー向けマイクロプロセッサで、同2.5%減の524億9,600万ドルと予測した。3番目はNANDフラッシュメモリで、同31.7%減の406億ドルとなる。4番目はコンピュータおよび周辺機器向けの特定用途向けICである。金額は同7.0%減の253億8,300万ドルと予測した。5番目は携帯電話端末向けのアプリケーションプロセッサで、同6.0%減の222億1,200万ドルとなる。

IC品目別の最大金額トップ5と最大数量トップ5。いずれも2019年の予測値。市場調査会社のIC Insightsが2019年7月31日に発表したもの

 半導体市場が回復する兆しが見えてきたとはいうものの、まだその兆候は強くない。ここが回復の底となるのか、あるいはもう一段の底があるのか。行方を慎重に見守る必要がある。