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日本マイクロソフト、製造業向け支援を加速~日本システムウエアと共にTHKの製造業向けサービスで連携

 日本マイクロソフト株式会社が製造業への支援を加速させている。同社は10日、THK株式会社が提供する製造業向けサービス「Omni THK」において、日本システムウエア株式会社(以下、NSW)とともに連携することを発表した。

 THKは、産業機器向け製品を製造する企業。同社のOmni THKは、顧客からの引き合いや商品の選定、見積もり、発注、納品などの商談プロセスをデジタル化するWebソリューションで、Microsoft Azureをベースに構築され、AzureのIoTやAI機能を活用している。ソフト面ではシステムインテグレータのNSWが技術的にサポートした。Omni THKは、7月よりTHKの顧客や販売代理店に対して無償提供されている。

Omni THKについて

 THK 取締役 専務執行役員の寺町崇史氏は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)が世界のトレンドとなっているが、各社の基幹システムを接続するにあたっては、セキュアなネットワークの構築やデータセットの統一が課題となってなかなか進まない。そこでTHKでは、対面業務が多い従来の商談プロセスを非対面化するコミュニケーションプラットフォームとして、Omni THKを提供することにした」と話す。

THK 取締役 専務執行役員 寺町崇史氏

 Omni THKは、主に4つのアプリケーションで構成されている。そのひとつは「Fast Delivery」で、短納期品の在庫検索や、価格と納期、カタログなどの情報が取得できるというもの。これにより、仕様の確認や、在庫および納期確認の工数が削減できる。

 「Orders」は、システム上で見積もりを依頼して見積書を取得し、発注申請に必要な書類がダウンロードできるアプリケーション。「Your Catalog」は、AIによる画像解析や付帯情報を使った検索の絞り込みが可能で、部品の共通化や設計ノウハウの共有につながる。「Forecast」は、顧客の生産計画とTHK製品の供給時期や数量を一括管理できるもの。これにより、的確な発注時期が把握できるという。

 今回の連携において日本マイクロソフトは、Azureの提供や技術支援に加え、ブロックチェーンやMixed Reality(複合現実)などの技術も活用したOmni THKの拡張を視野に検証を支援する。

 また、マイクロソフトのパートナープログラム「MPN for Industry」によるサービスの拡販やビジネスマッチングを行うほか、海外市場も含めOmni THKのマーケティング活動を共同で実施する。

 一方でNSWは、IoTやAIなどの最新技術を活用し、継続的にOmni THKの開発とサポートを行う。また、THKの新しいサービスモデルの創出を支援するとともに、営業連携による拡販も行う。

3社の役割

 日本マイクロソフト 執行役員 常務 エンタープライズ事業本部長のヘニー・ローブシャー氏は、「Omni THKは、デジタルやAIを駆使することで、適切な製品を選定する過程や納品までの時間短縮を実現したユニークなソリューション。Azureのプラットフォームや機能を活用しており、マイクロソフトが製造業に向けて提供できるコネクテッドサービスの良い一例だ」と述べている。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 エンタープライズ事業本部長 ヘニー・ローブシャー氏

 THKでは、2018年10月に発表した製造業向け予兆検知IoTサービス「OMNIedge」もAzureベースで構築されていることから、Omni THKとOMNIedgeのデータおよびサービス連携も視野に入れている。また、Omni THKのデータ活用を念頭に、顧客や販売代理店の基幹システムおよびECサイトと連携できるモジュールの提供も検討しているという。

製造業に向けたマイクロソフトの動き

 今回の発表を機に、日本マイクロソフトでは製造および資源業界に対する支援をあらためて強調している。ローブシャー氏は、同社が支援できる分野として、「働き方改革」「コネクテッド製品およびエネルギーのイノベーション」「コネクテッドフィールドサービス」「コネクテッド販売およびサービス」「未来の工場/運営」「インテリジェントサプライチェーン」「持続可能性」の7点を挙げており、「今回のような日本企業の事例を増やし、世界に向けて発信していきたい」とする。

マイクロソフトの製造業に向けた注力領域
製造業に向けリファレンスアーキテクチャを提供

 日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 インダストリーマーケティングマネージャーの鈴木靖隆氏は、今後の取り組みのひとつとして、「製造業向けにリファレンスアーキテクチャを提供していきたい」と話す。

 「これまでマイクロソフトでは、技術よりの説明をすることが多く、実際の業務でどのように技術が適用できるかわかりにくかった。そのため、今後は業務シナリオごとの機能要件をまとめた『ファンクション・マップ』と、機能要件をアーキテクチャに落とし込める『アーキテクチャ・マップ』、サンプル実装の構成済みガイドとなる『パイロット・インプリメント』を提供する」(鈴木氏)。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 インダストリーマーケティングマネージャー 鈴木靖隆氏

 また、同社 業務執行役員 政策渉外・法務本部 副本部長 弁護士の舟山聡氏は、「伝統的な法務業務だけでは製造業を支援できない」として、自社の知的財産のみならず顧客の知的財産まで保護する仕組みも用意しているとした。

日本マイクロソフト 業務執行役員 政策渉外・法務本部 副本部長 弁護士 舟山聡氏

 それは、数年前より開始した知財保護プログラム「Microsoft Azure IP Advantage」(AIPA)と呼ばれるものだ。通常マイクロソフトでは、顧客に対する損害賠償責任に契約上の上限金額を設けているが、第三者からの知財侵害に対する防御では上限がないという。また、万一Azureの利用によって顧客が特許侵害訴訟に巻き込まれた場合、マイクロソフトは特許ポートフォリオの一部を提供し、1万件の特許の中から顧客が1件を選択、防御のために使えるようにしている。

 さらに、仮にマイクロソフトが将来第三者に特許を譲渡する場合、譲渡先のパテントトロールのような行為を阻止するため、顧客が保護されるライセンス条件をつけて譲渡するという。

 舟山氏によると、今年3月よりこのプログラムの対象範囲が拡張され、Azure SphereとWindows 10 IoTにも上限なしの補償を提供することになった。また、要件を満たすスタートアップ企業には、特許連合LOTネットワークへの加入が無償となり、パテントトロールから保護される仕組みが提供されるほか、マイクロソフトの特許が3件まで利用可能となる。IoTに関しては、Azureに接続されたユーザーのIoTデバイスにも保護範囲が拡大されるとしている。

 舟山氏は、「これは業界トップレベルの知財保護だ。これにより製造業は特許侵害のリスクが抑えられ、自社のイノベーションに集中できる」と述べている。

Microsoft Azure IP Advantageを拡張