ワンメディア代表取締役の明石ガクト氏。総額4.2億円調達の意図とは。
自社サイトを持たず、Twitterやインスタグラムなどで動画を拡散する「分散型メディア」として知られるワンメディアは7月16日、LINE Venturesなどから総額4.2億円の資金調達を実施したと発表した。
「今回(の調達で)、世間からの見られ方はものすごい変わると思う」── 代表取締役の明石ガクト氏が、今回の調達で描くワンメディアの“これから”を、Business Insider Japanに語った。
分散型メディアは個に向かう
2014年に設立し、日本における動画メディアや分散型メディアの旗手として注目を集めてきたワンメディアだが、この資金調達を機にビジネスモデルの大きな転換を図る。
今までコンテンツをすべて内製してきた「ワンメディア」事業を縮小し、代わりにクリエイターのネットワークである「ONE BY ONE」を設立。今後は社内外を問わず、映画監督やディレクターなどの動画制作にかかわるクリエイターと、動画制作に興味のある企業とをマッチングしていくという。
「クリエイターネットワークを作るといっても、彼らが(ワンメディアに)所属するわけではない」と語る明石ガクト氏。
内製にこだわってきたワンメディアがこの決断をした理由として、動画メディアが今ぶつかっている課題がある、と明石氏はいう。
ここ最近顕著なのが、今まで以上にメディアが細分化し、個人による発信がメディアよりも影響力を持ちつつある点だ。
「僕のTwitterもすでにワンメディアのアカウントよりもフォロワー数が多い」と明石氏が語るように、2010年代中盤から盛り上がった「分散型メディア」の流れは、最終的に“個”の発信に行き着く ── 明石氏はそう見ている。
さらに動画制作にかかるコストの問題もある。動画制作は労働集約型のビジネスであり、また同じ人だけが動画制作をすると「クリエイティブの幅も広がらない」(明石氏)。
これらの課題を解決するために制作ネットワークを広げる必要が出てきた、と明石氏はいう。
動画時代の「音楽レーベル」に
前述したように、このために新たに仕掛けるのが「ONE by ONE」と呼ばれるクリエイタープールだ。
登録クリエイターは、2020年5月までに1000人を目指すという。
「既存の芸能事務所などと競合するつもりはない。イメージでいうと、僕らは音楽のレーベルに近い。事務所に所属するアーティストが音楽作品をリリースする時にレコード会社がプロデュースするように、僕らは(インフルエンサーが)動画でなにかをやって行く時にサポートする役割を担う」
現在の「ワンメディア」も、メディアが主語の発信ではなく、今後はクリエイターの名前ありきでの発信になっていくという。
LINE NEWS内の「VISION」で配信されている動画シリーズ。
出典:ワンメディア
こうしたネットワークを活用した企画の第1弾としてワンメディアが2019年6月から打ち出しているのが、LINEニュース内の動画プロジェクトである「VISION」だ。
菅本裕子さんをはじめとするインフルエンサーの動画を、ワンメディアと関わりのある動画クリエイターが制作し、シリーズ形式で放映していく。
「LINEは、スマートディスプレイにも力を入れており、5G時代の新しいメディアの創出に目線が行っている」(明石氏)
週刊少年ジャンプが『ONE PIECE』や『HUNTER×HUNTER』を生んだように、動画の人気作品が次々と生まれる“プラットフォーム”になりたいと意気込む明石氏。
「分散型メディアの次の時代」へと手を打つことで、動画業界にまた一石を投じることができるのだろうか。
(文・写真、西山里緒)