【独占】メルペイCTOが語る金融サービスの未来「お金がなくても使えるサービスに」

メルペイ POP

2019年2月に本格スタートした「メルペイ」。キャッシュレス決済としては後発ながらも、存在感のある施策を続けている。

日本最大級のフリマアプリ「メルカリ」のキャッシュレス決済機能「メルペイ」。メルペイはメルカリの完全子会社として2017年11月に設立されたが、2019年2月のサービス開始まであまり大きな動きはなかった。

その間、さまざまな事業者がキャッシュレス事業に参入し、還元合戦を繰り広げた。業界内では「後発となったメルペイにはどのような戦略があるのか」と期待と不安が入り混じった目線が浴びせられた。

メルペイはその後、2019年2月にApple Pay対応iPhoneおよびおサイフケータイ対応Android端末向けに、非接触決済「iD」を通じた決済サービスをスタート。3月にはコード決済、4月には後払いサービス、5月と6月には最大70%還元のキャンペーンを実施するなど、着実に勢いを増している。

なぜ、メルペイはここまでサービスを加速させることができたのか。また、メルペイがキャッシュレスという手段で実現したい未来はどんなものなのか。

同社CTO(Chief Technology Officer)で、過去にLINE Payの実質的な前身である「WebPay」の立ち上げにも参加した曾川景介氏に話を聞いた。

物を動かすメルカリ、お金を動かすメルペイ

曾川氏

メルペイ取締役CTOの曾川景介氏。

WebPay時代を含めると、すでに8年間も決済事業に携わってきた曾川氏。事業拡大に耐えうるシステム設計を、メルペイ立ち上げ当初からスピーディーに進めたことが、現在展開しているサービスを実現できた要因のひとつと語る。

「会社としてメルペイをつくる前から、ソウゾウ※1という会社があって、メルカリ自体がマイクロサービス化※2、プラットフォーム化というところを進めた」

※1 ソウゾウとは
メルカリの100%子会社として2015年に設立。メルカリの新規事業の開発を担当。メルカリは6月13日に、7月末に開催される株主総会の決議によってソウゾウを解散すると発表している。

※2マイクロサービス化とは
大きなサービスの中身を個別のサービスに分割し、開発すること。より小さな単位での開発となるため、最適な技術を選択したり、開発者の適切な配置にもつながり、より高速かつ将来のスケールアップを見越した開発が可能になる。

しかし、曾川氏は技術的な背景だけではなく、そもそも「なぜメルペイをやるのか、という理由の部分もしっかり時間をかけて準備してきた」と話す。

「メルカリのミッションは、“捨てるをなくす”。最初は意味がわからなかったが、山田さん(メルカリ会長兼CEOの山田進太郎氏)から、自分の要らないものが誰かの必要なものになるということと教わった。

自分はそれに対し、すごく共助的なものと感じた。ただ、捨てるをなくす、だけならあげるだけのギフト的なサービスにすればいい。メルカリはそうせずにお金を介在させ、経済合理性を確立した。

お金はいろいろなものを媒介するために必要。メルカリは物の流動性をつくったサービスだが、僕がジョインしたらお金の流動性をつくれるんじゃないか。それができたら、物とお金、つまり財を有効的に使えて、社会を1歩2歩と進められるんじゃないか、というのがメルペイの出発点だ」

iD対応からのスタートは必要なものだった

iD メルペイ

メルペイはまず、iPhoneのiD対応から発表した。

キャッシュレス決済を追っている筆者にとって、メルペイが衝撃的だったのは、最初にリリースした決済方法に流行の「2次元コード(バーコード/QRコード)」ではなく、非接触決済の「iD」を採用した点だ。

iDはNTTドコモが2005年11月に開始したサービスで、フィーチャーフォンでもおサイフケータイ対応であれば利用でき、現在ではアップルやグーグルの決済サービスとも連携している。

歴史が長い分、加盟店数も多く存在するため、メルペイがiDという既存の決済サービスに対応することは非常に合理的だ。

ただ、メルペイは今回、iD実装のために三井住友カードと協業し、iPhone向けにはApple Payを通して、おサイフケータイ対応Androidスマートフォンにはメルカリアプリから直接iDを発行(サービスの有効化)できる機能を搭載するという、開発的にコストがかかる方法をとっている。

メルペイ CPM

次にメルペイは「利用者提示型(CPM=Customer-Presented Mode)」での決済に対応した。

これについて、曾川氏は「(とくにAndroid対応については)大変だった」とその開発の苦労を語りつつも、ユーザー体験のためにどうしても必要なことだったしている。

「iDは、キャッシュレス分野の大先輩。歴史が長いために、独自の実装の仕方が存在する。FeliCaの保存領域も有限で、既存のiDアプリとの兼ね合いもどうするかなど、さまざまな問題があった。それを整理したり解決する時間が必要だった。

例えば、既存のiDは専用アプリで発行を行ってきた。しかし、ユーザーの体験を考えると(別アプリで決済機能を有効化するのではなく)メルカリアプリ内での決済を行うべきと考えた。その結果、開発コストはかかったが今の形に行き着いた」

お金は日常どこでも使えるから価値がある。現金では当たり前のことだが、キャッシュレス決済の現状は決してそうではない。技術的なハードルはありながらも、ある程度の規模をもつ別のプラットフォームに乗り入れたことは、メルペイが「メルカリ残高」を現実のお金に近づけたいと、考えている証拠だろう。

メルペイの価値は、他社とは比べられない

メルペイ MPM

そして、「店舗掲示型(MPM=Merchant-Presented Mode)」にも対応した。

メルペイを現金に近づけるためには、iDで決済できる店舗以外へのフォローも必要だ。そのためには、メルペイが使える加盟店と、使ってくれるユーザーの両方を同時に拡大していく必要がある。

そのために重要になってくることのひとつが、決済事業者の間で差別化ポイントとしてあげられる、各社の抱える「経済圏の規模の大きさ」だ。

LINE PayであればメッセンジャーであるLINEのユーザー、楽天ペイであればポイントサービスを中心とした楽天会員、PayPayであればソフトバンクとヤフーの顧客基盤。そして、メルペイならメルカリユーザーというわけだ。

メルペイ ロゴ

メルカリの決済サービスであるメルペイ。

自社のユーザーをいかにキャッシュレスに誘い、加盟店に送客できるか。加盟店側も各事業者が抱えるユーザー目当てに、サービスを導入している例も多い。

メルカリによると、メルカリ本体の月間アクティブユーザー数は1300万人、うちメルペイのユーザー(「iD」の利用登録を行ったユーザー)は6月18日に200万人を突破。その勢いには目を見張るものがあるが、それでもLINEや楽天、ソフトバンク・ヤフーと単純に比較してしまうと規模は小さく感じる。

この点について、曾川氏はどう考えているのだろうか。

「LINEにWebPayが買収されたときを振り返ると、(LINEの)月間アクティブユーザー(MAU)は数千万ぐらいだった。当時、規模の指標としては、MAUの半分程度が決済を使っているといいなと思っていた。

メルペイにとってその指標がどんなものなのかは今言えないが、少なくともLINEと違うのは、もともとあるお金(メルカリの売上金)を使えるようにしたいということ。

メルペイ単独で成長したいというより、まずはメルカリで新たな価値を生み出す人が増えて、そこで得られたお金がさらに新たな価値を生み出すためにメルペイが使われてほしい。

送金ニーズはこれから来るかもしれないが、現時点では日常の送金の回数より、物を買うための決済の方が圧倒的に多い。メルカリは1日に何回も長い時間ほしい物を見てくださる方もいて、お金との接点は非常に多い。なので、(他の決済サービスと)同じ指標や軸では測れないだろうと思っている」

Mobile Payment Alliance

LINE Pay、NTTドコモ、メルペイの3社が名を連ねる「Mobile Payment Alliance」。

とはいえ、決済事業者である以上、還元キャンペーンを行ったり、政府が主導するポイントバック施策を見越して行動するなどの取り組みは、「経済合理性的には必要なこと」(曾川氏)という。

メルカリの強みは活かしつつ、2月に開催した「MERPAY CONFERENCE 2019」で掲げた「OPENNESS戦略」に沿って、LINEやNTTドコモなどとも協力しながら、「使えるサービス」を目指していく。

「メルペイはお金がなくても使えるサービスに」

曾川氏

8年間、新規の決済サービスに取り組んできた曾川氏がメルペイで目指したいものとは。

経済産業省は2018年4月に公表した「キャッシュレス・ビジョン」において、2025年までに国内のキャッシュレス決済比率を40%とする目標を設定している。

そんな未来では、メルペイはどのような存在でいたいのか。最後に、曾川氏に将来のメルペイの姿を聞いてみた。

「今もそうだが、キャッシュレスや今後生まれるだろう金融サービスは、お金のあることが前提としたものになるだろうと思う。しかし、メルペイはお金がなくても使えるサービスにしていきたい。もっと金融包摂的なものでありたい。

テクノロジーが漠然とした将来の不安を解決できることを示し、受け入れられる未来を目指したい。CTOとしては特にそう思う。ただ、自分自身はテクノロジーに偏っているところがあるので、(新たなテクノロジーにまだ馴染みのない)ユーザーに不安を与えないことにはすごく気をつかっている。

テクノロジーは使い方を誤れば、お金を収斂させてしまう。そういう側面があることを踏まえた上で、なぜ僕らは技術を使うのか、よく考えていきたい。今までもそうしてきたし、これからもそうしていきたいと思う」

現金ではなくキャッシュレス決済が当たり前になる未来までは、まだかかりそうだが、曾川氏率いる「共助」を重視するメルカリ・メルペイが決済領域だけではなく、社会をどう変えていくのか、今後も注目だ。

(文、撮影・小林優多郎)

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