米イランが第2次サイバー戦争へ。そのあまりにも漫画な展開

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米イランが第2次サイバー戦争へ。そのあまりにも漫画な展開
Image: Koichi Kamoshida / スタッフ/Getty Images News/ゲッティ イメージズ
撃ち落とされた米軍無人偵察機「RQ-4A グローバルホーク」

ドローンがはらはらと空を舞い落ち、7年前の地獄の門がゴゴゴゴォ…。

米軍無人偵察機「RQ-4A グローバルホーク」の撃墜を受け、米軍がイランにサイバー攻撃を開始した模様です。米Yahoo Newsが「2人の元諜報機関職員」の話として最初伝えたもの。

詳細は不明ですが、攻撃目標は「イラン革命防衛隊(IRGC)とつながりがあり、数年前からホルムズ海峡(イランとアラビア半島の間、西はペルシャ湾、東はインド洋オマーン湾。日量1億7400万バレルが通る世界一の原油の要所)を航行する軍と民間の船舶の動きをデジタルで追跡・攻撃する任務を遂行しているスパイ集団」とのことです。

事実経過

これまでの流れを整理してみます。

1)4月下旬、アメリカがイラン原油全面禁輸を発表、5月から上客の日本・中国も取引停止となりイランが困窮。

2)6月13日、原油輸送の要所オマーン湾で米友好国のオイルタンカー2隻が攻撃され、米がイランを名指しで批判。

3)6月19日、調査協力の米軍ドローンをイランが撃墜。米「国際空域」、イラン「領空侵犯」と主張が真っ向対立。

4)トランプ、報復のためイランに宣戦布告に動くも、直前で思いとどまり、第三次世界大戦開戦1歩手前の重大な決断をタイポを交えながら世界にツイート。

昨晩、3つの攻撃目標(sitesがsightsになってる)を見定めながら大佐に死傷者の規模を尋ねた。「150名であります、サー」という回答だった。無人ドローン撃墜の報復には釣り合わないと判断し、攻撃10分前に停止を命じた。

5)攻撃目標を「商用タンカー吸着型機雷攻撃を支援したイランのスパイ集団」に切り換え、ミサイル攻撃能力を削ぐ。

6)トランプ、「メイク・イラン・グレイト・アゲイン」と発言。開戦のプレッシャーから解放されて頭がおかしくなったのかとの不安が広まる。

7)トランプ、自ら撒いた火を消すのに疲れ、側近の言うこともまったく信用できなくなりキャンプ・デービッドの山小屋に篭る

…となります。タンカー攻撃がイランの仕業だとする米側の主張への疑惑は徐々に薄れてますが、仮にイランの仕業だとしても宣戦布告のようなものではなく、原油ボイコットが続けばこんなこともできるという威嚇と有識者の間では見られています。

スタックスネット vs. シャムーン再び?

気になるサイバー攻撃の中身ですが、米政府下請けセキュリティ会社のFireEye、CrowdStrike、DragosがThe Wall Street Journalに明らかにしたところによれば、イラン政府ハッカー集団によるものとみられる米国へのフィッシング詐欺などの動きが数週間前から活発化しているものの、まだ成功には至っていない模様です。攻撃目標は石油ガス関連企業、大統領府からのメッセージなどなど。石油関連のみなさまはとくに注意が必要です。

サイバー攻撃といえば、米軍は2009年から2012年にかけて史上最強最悪のサイバー兵器Stuxnet(スタックスネット)でイランのナタンズ核施設を攻撃し、1,000台近くの遠心分離機を機能停止に追い込みました。これを受け、イラン政府のハッカー集団は米友好国サウジアラビア(イランとはライバル関係)の国営石油会社サウジアラムコにShamoon攻撃を仕掛け、同社のコンピュータ3万台以上のハードドライブを空にしました。

あまりにも不毛すぎるということで、2015年、イランはウラン濃縮レベルを兵器製造レベルまで上げないしサイバー攻撃もやめるから経済制裁はやめてね、ということでオバマ大統領と合意を結んでいたのですが、あんな合意はクソ食らえと、トランプ大統領が昨年、これを一方的に破棄したもんだから、青ざめたのは世界各国首脳核兵器の専門家です。イランは合意を守っていると国際原子力機関(IAEA)が何度繰り返しても馬耳東風ですからねぇ…。このまま核疑惑を理由に米国が兵糧攻めを続ければ、イランだけ合意を守るのにも限界が…。

こうして米国はイランを煽るだけ煽っておいて、イラン近海がそろそろヤバいからタンカーみんなで守ろうぜーと国際社会の協調を呼びかけているのでした。

記者暗殺のサウジには、制裁はおろか捜査も考えていない

この一連のドローン危機ですっかり影が薄れていますが、米国では同じ週、米友好国サウジアラビアによるカショギ記者大使館暗殺事件の調査を進めていた国連から、バラバラ殺人直前の生々しい通話記録をふくむ100ページもの報告書が公開となって、サウジの経済制裁で国際社会は協調すべきとの声も湧き起こっているのですが、トランプ大統領はそっちはまったく無問題と考えています。23日のNBC日曜報道番組で記者に「国連はFBIの捜査を要請しているが、傍観者として応じる責任があるのではないか」と問われると、こう答えました。

イランは毎日たくさんの人を殺している。中東はそういうやばい地域だ。でもサウジは武器をたくさん買ってくれる。イラン、サウジ、ほかの国も、ここでは名前は出さないが、中東はみなそう。だからといって武器を売らないとどうなる? 中国やロシアに売りつけられて終わりではないか。テイク・ザ・マネーだよ、ジャック(記者)。テイク・ザ・マネー。

サウジの悪事のコメントを求められても、とりあえずイランの名前を出すトランプなのでした…。

Source: Yahoo News, CNNPolitics, The Wall Street Journal