新製品レビュー

RICOH THETA Z1

1型センサーを搭載 大幅に画質が向上した360度カメラ

2013年に初のコンシューマー向け全天周カメラとして登場したRICOH THETA。その後毎年秋に新機種が登場していたのだが、2018年はとうとう更新がなかった。そのサイクルから数カ月遅れで発表されたのがファン待望の新機種「RICOH THETA Z1」だ。Androidベースのシステムやプラグインでの機能拡張などは、前モデルTHETA Vから継承されている。

従来モデルも引き続き販売されるため、THETAシリーズはエントリーモデル「THETA SC」、スタンダードモデル「THETA V」、フラッグシップモデル「THETA Z1」という構成となった。

基本性能が大幅に強化

何と言っても本モデルの一番の進化は写真画質の大幅な向上である。THETA Vでは1,200万画素の1/2.3型センサーを2基搭載していたが、THETA Z1は2,000万画素の1.0型裏面照射型CMOSイメージセンサーを2つ搭載しており、それに合わせて光学系も一新された。パッと見た瞬間の印象は歴代THETAそのものだが、並べてみると全くの別物であることがわかる。

まず前後のレンズが大きくなり、無理やりと言っても過言でない光学設計(プリズムで3回屈折させる)で1.0型センサーを詰め込んだ。そのためボディは厚みを増したが、高級感と堅牢性を兼ね備えたマグネシウム合金を採用。まず手に持った時の重厚感に驚く。まるで前機種THETA Vですらオモチャに感じてしまう程だ。

左からTHETA Z1、THETA V

さらに手にしてすぐに気づくのが本体下部に新設された表示パネル。これにより本体のバッテリー残量や撮影可能枚数などの各種情報が、スマホアプリなどを使わずに本体のみでひと目で分かるようになった。

本体側面のボタン類は従来の電源、無線LAN、Modeボタンに加え、新たにFn(ファンクション)ボタンが追加され、本体でのセルフタイマーやマイセッティングの切り替えが可能となり使い勝手が向上した。

またFnボタンを長押しすると撮影モードや露出状態が表示され、スマホアプリで設定変更が必要かどうかを確認することができる。

さらに後述するプラグインの確認や切り替え操作も本体ボタンのみで設定可能だ。

底面に充電/PC接続用USBポートがあるのは変わらないが、端子がmicroUSBからUSB Type-Cに変更された。また三脚ネジが金属製となったのも朗報だ。さらにその横には要望の多かったストラップホールも装備。この辺りはユーザーからの意見が反映されている。

階調の再現性が向上

さて気になる画質であるが、実際に撮影してみるとその違いは一目瞭然だ。

まずは静止画解像度が5,376×3,688ピクセルから6,720×3,360ピクセル(7K約23MP)に向上した。単に解像度の向上というだけでなく、フルオートの手持ち撮影でもパッと見の解像感からして従来シリーズとは別次元だ。

これは1.0型センサーと光学性能の向上が圧倒的な違いとなって現れている。前機種THETA Vも他社製の360度カメラと比較すると写真画質は頭一つ抜けていた感があったが、それすら過去のものと思えるくらい大幅な画質向上を体感できる。


鎌北湖 THETA Z1 RAW現像 #sakura3d #theta360 -Spherical Image - RICOH THETA


そしてすぐに気づくのが、今までTHETAユーザーがずっと気になっていた「赤玉」が見当たらないこと。さらにフレアやパープルフリンジ、暗部ノイズも大幅に低減されているのが分かる。全天周撮影では白飛びしやすい雲などの階調表現も良好だ。


スローシャッター #theta360 -Spherical Image - RICOH THETA


スマホとの連携もスムーズ

従来通りスマートフォンと無線LAN接続すれば、専用アプリ「RICOH THETA」で細かな撮影条件の設定が可能となる。この無線LAN接続も先日のアプリバージョンアップで簡単に素早く接続できるようになった。

iOSとAndroidでは若干操作が異なるが、従来のようにスマートフォンの設定画面とTHETAアプリを行き来することなく、THETAアプリ単体で完結できるようになったのはありがたい。また一度でも接続したことのあるTHETAは分けて表示されるので、オフ会などTHETAが沢山ある状況でも自身のTHETAにパッと接続できる。

絞りも3段階(F2.1、F3.5、F5.6)切り替えることが可能となった。絞って撮影すれば魚眼レンズの周辺画質も向上しするし、近景から遠景までシャープな描写となる。充分に明るい環境であれば、フルオートで撮影してもF5.6に絞られていた。またこれに伴い「絞り優先モード」も搭載されている。


近景もキレイ #thetaz1 #theta360 -Spherical Image - RICOH THETA


そして個人的にはTHETA Vでなくなってしまった「インターバル合成」機能(比較明合成)が復活したことが嬉しい。これでTHETA Z1本体のみで全天周の星の軌跡が簡単に撮影できるので是非試して欲しい。

さらにシリーズ初となるRAW(DNG)記録にも対応。RAWで撮影した素材はAdobe Lightroom Classic CCにて現像し、専用プラグイン「RICOH THETA Stitcher」で簡単にスティッチして書き出すことができる。天頂補正や正面位置、スティッチング距離の微調整も可能だ。こうなってくると写真作品としての表現の幅も一気に広がってくるだけでなく、プロ向けの用途にも十分使用できると言えるだろう。操作感が完全にカメラそのものなのである。

画づくりの自由度が増した動画撮影

動画性能は4K解像度(3,840×1,920ピクセル 29.97fps)でTHETA Vから変更ない。

ただし、ホワイトバランスと露出補正しか変更できなかった撮影条件設定が、静止画同様に各種モード設定が可能となり画づくりが自在となった。動画でも赤玉が消えたのは嬉しいが、見た目の印象は若干彩度とコントラストが高めに感じる程度でTHETA Vとあまり変わりない。

手ブレ補正機能が向上したということなのだが、比較してみるとあまり大きな違いは感じられなかった。ただこれについてはスタビライズが上手く効いていないように感じたので、発売日までにはソフトウェアのアップデートで調整されることを願う。

とは言え他社製コンシューマー機には搭載されていない「4ch空間音声記録」に対応(THETA Vにも搭載されている)しており、特別な外部マイクを必要とせずに臨場感のある全天周映像が撮影できる。THETA Z1での動画撮影は三脚に据えてじっくり空間を記録する用途に向いているだろう。また「4K360度のライブストリーミング」にも対応している。

用途にあったプラグインが利用できる

AndroidベースとなったTHETA Vから対応したプラグイン機能だが、Z1では表示パネルを見ながら本体のボタン操作だけで3つのプラグインを切り替えて使えるようになった。Vではスマホアプリで操作する必要があったので使い勝手はかなり向上している。

そこで自分なら3つ何を入れようかと考えてみた。

1つ目は長時間の動画記録が可能となる「Long Video Classic」。THETAの動画撮影可能時間は最長25分に制限されているのだが、これを解除してスタンダード画質で長時間録画が可能となるプラグインだ。イベント記録などで重宝する。

2つ目はより高度な画像処理やスティッチが可能になる「DualFisheye Plugin」。本体内でスティッチせずにパソコンでの後処理でより精密な処理をする際に使用するのだが、Z1であればRAWで撮影すれば自動的にこのモードになるので撮影枚数が多い時などにJPEG記録で使用する。

そして3つ目は「VR Media Connection BETA」。Playstation VRやOculus GoなどからワイヤレスでTHETAの内部ストレージに直接アクセスできるようになる。転送せずに本格的なVRで視聴できるので動作確認などに最適だ。

この様に自分の用途にあったプラグインを利用すれば、業務用途でもしっかり活躍してくれるだろう。

Fnボタンでオン/オフを切り替えられるようになったマイセッティングは、静止画だけでなく動画にも対応。本体だけで同じ条件での連続撮影が簡単になった。個人的には国際宇宙ステーションの軌跡をインターバル合成で撮影する設定を登録して使用したいと考えている。

まとめ

この様に写真撮影機能に特化して劇的に進化したTHETA Z1。従来の360度カメラはどうしてもガジェットの域を超えられなかったところがあるが、初代THETAの登場から約5年半が経過してようやくカメラと呼べる域に達した製品になったと感じた。

残念なのはバッテリーやストレージが内蔵のみなこと。やはりどちらも交換できた方が使い勝手は良いのだが、要望が多いにもかかわらず今回も搭載されなかった。特に内蔵メモリーは約19GBで、RAWとJPEGの同時記録では350枚程度しか保存できない。

それと底部端子類が変更になったため「3Dマイクロフォン」も使えなくなってしまった。また本体サイズが大きくなったので従来の「水中ハウジングケース」や「防滴ハードケース」も残念ながら使用できない。

THETA Z1は「GRシリーズ」のように、360度カメラのパイオニアとしてのリコーの情熱が詰まった正にフラッグシップモデルだ。

THETA Vが5万円前後のところ、今までのTHETAユーザーからすると、約13万円のTHETA Z1は高価な印象があるけれでも、より凝った作品づくりをしたいハイアマチュアや、業務用途で利用される方なら納得するだろう。

わっき

デジタル・コンテンツ・デザイナー/パノラマ写真家。1999年にフリーランスとして独立。テレビ/映画/ゲームなど幅広い分野の映像制作を手がけ、現在はYouTuber、動画レポーターとしても活動中。