イベントレポート

「楽天モバイルの5Gは真の5G」、QualcommやIntelとも協業しインフラ構築

Qualcommブースに展示されていた楽天モバイルのスモールセル

 楽天モバイルネットワーク株式会社(以下楽天モバイル)は、今年(2019年)の10月からMNOとしての通信サービスを提供開始する予定だ。MWC 19 Barcelonaで行なった記者会見のなかで、代表取締役社長の山田善久氏、およびCTO(最高技術責任者)のタレック・アミン氏が、日本の報道関係者からの質疑応答に答えた。

楽天モバイルの5Gは、5GNRのSAに対応した基地局が大多数でスタートする

 すでに楽天は技術的な詳細を昨年10月の参入発表時点で、ネットワーク構成をどうするかを明らかにしていた(詳しくは僚誌ケータイWatchの記事をご参照頂きたい)が、今回はそれに加えて楽天のネットワークコアなどにハードウェアを提供するサプライヤーなどを明らかにした。

楽天モバイルネットワーク株式会社 代表取締役社長 山田善久氏

 そして、今回筆者が「楽天の5Gの基地局が5GNRで規定されているNSA(Non Stand Alone)とSA(Stand Alone)のどちらでスタートするのか」と質問した件に関して、山田社長は「端末側の対応もあるのでNSAも一部は入ると思うが、大部分はSAになる」という見通しを明らかにした。

 3GPPで規定されている5Gの標準仕様である5GNR(5G New Radio)では、基地局の仕様に関しては2つの方式が規定されている。大雑把に言えば、4Gとの互換性を維持して無線部分だけを5Gに切り替えたものがNSA、基地局のコアの部分も含めて最初から5Gの仕様で作ったものがSAだ。

 よって、既存の通信キャリアの場合はまずはNSAから5Gの実装をスタートするところがほとんど。というのも、そうした既存の通信キャリアは膨大な4Gの資産を持っており、それを捨てて完全に新しいSAに切り替えるのが難しいからだ。実際、これまでSAで5Gを導入するとしてきたのは中国の通信キャリアぐらいで、日本をはじめて先進国の通信キャリアはいずれもNSAから5Gを導入し、段階的にSAに切り替えていく計画だ。

IntelのXeon/FPGAを採用した汎用ハードウェア上で、NFVにより仮想化でRANなどのコア機能を実現

 しかし、既存の4Gの資産を持たない楽天モバイルの場合にはそうした必要がなく、いきなりSAからスタートすることが可能だ。SAにするメリットは、コアと呼ばれる基地局のインフラ部分をSDN(Software Defined Network)という手法を利用して、ソフトウェアによりRAN(Radio Access Network)などのコアの機能を実現できる点である。

 具体的には、Intelが提供するXeonスケーラブル・プロセッサーと、FPGAアクセラレータを利用して、その上でNFV(Network Functions Virtualization)と呼ばれるネットワーク機器を仮想化ソフトウェアによってソフトウェアで実現する。

楽天のブースに展示されていたXeon SP搭載のラックサーバー。これが楽天の5G基地局のコア部分となる
こちらはAlteraのFPGA搭載のラックサーバー

 これにより、負荷に応じて動かすVM(仮想マシン)の数を変えるといった柔軟なネットワーク構成が可能になる。Intelの発表によれば、XeonサーバーはODMメーカーのQuantaが提供し、RANの部分はAltiostarとCiscoが提供する。

 こうしたSAの基地局を大多数にすることで、MEC(Multi-access Edge Computing)と呼ばれるエッジコンピューティングの手法を取り組み、基地局に近いところにエッジサーバーと呼ばれる、特定用途のサーバーを置くことが可能になる。たとえば、動画配信事業者のエッジサーバーを置き、インターネットを介さずに楽天モバイルのネットワーク内だけで配信したりするということが可能になる。

 いまの動画ストリーミングサービスは、レイテンシや帯域幅の制限などから十分な速度が出ず、携帯電話回線では低い解像度でしか再生できないときもある。しかし、それがエッジサーバーとして楽天のネットワーク内に置くことができるようになれば、4Kや8Kといったストリーミングビデオサービスをモバイル向けにも提供したりが可能になる可能性が出てくるわけだ。

 そして、IAやFPGAという一般的なハードウェアとソフトウェアという組み合わせにより実現することで、これまでよりもローコストに実現できる。楽天モバイルの山田社長は「競合他社の数分の一」と基地局のコストが低コストであることを強調した。その結果として通信費を下げることが可能になり、顧客に対して低価格で5G回線を提供可能になる。

楽天モバイルネットワーク株式会社 CTO(最高技術責任者) タレック・アミン氏

 また、5Gの特徴の1つとして超低遅延が紹介されるが、実際に超低遅延を実現するには基地局がSAになる必要があると考えられており、楽天の5Gは最初から超低遅延が実現できる可能性が高い。アミンCTOは「SAこそが真の5Gだ」と表現しており、4Gのインフラを引っ張らざるを得ないほかの通信キャリアにはできない新しいサービスを提供できると強調した。

サブ6GHzとミリ波の両方に対応したスモールセルではQualcommと協業

 また、5Gではサブ6GHzと呼ばれる6GHz以下帯とミリ波帯(28GHzなどの超高周波数帯)の2つの帯域をサポートするが、楽天ではサービス開始時から両方への対応を検討していると明らかにした。「ミリ波帯とサブ6GHz帯の両方をコンビネーションで提供していく。より幅広いエリアはサブ6GHzの3.7GHz帯で、そして都心部などはミリ波でカバーしていく」と述べ、幅広いエリアをカバーできる3.7GHz帯は東名阪のより広いエリア、ミリ波は東京などの都心部、そしてそれでもカバーできないところはすでに発表されているKDDIから提供を受ける予定のローミングサービスでカバーする計画だと説明した。

楽天ブースに展示されていたミリ波のアンテナ、屋内と屋外共用
こちらは4G/LTE用のアンテナ。楽天の基地局ではこの4G/LTE用のアンテナ、ミリ波のアンテナ、そして今回は展示されていなかったがサブ6GHz用のアンテナが装着されることになる

 なお、現時点では総務省は5Gの電波の割り当てを発表していないため、楽天モバイルサブ6GHzとミリ波の電波割り当てを受けるというのは最終決定ではない。しかし、4キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)はすでに総務省に申請を済ませており、4月上旬に決定して発表される見通しだ。

Qualcommのブースに展示されていたFSM100xxシリーズを搭載した5Gのスモールセルのリファレンスデザイン。楽天も同じチップを使ってスモールセルを構成することを今回明らかにした

 このミリ波の都心でのサポートに関しては都心部に設置される基地局でもサポートされるほか、建物内などに置かれる予定のスモールセルと呼ばれる小型の基地局ででもサポートされる予定。楽天モバイルはこのスモールセルの開発でQualcommと協業することをMWCで発表しており、5G向けのスモールセル(サブ6GHz/ミリ波両対応)ではQualcommのスモールセル用SoCの「FSM100xx」を利用する。

 今回楽天のブースやQualcommブースには楽天とODMメーカーのSercommが共同開発したLTE用のスモールセルが展示されており、まずはこの4Gのスモールセルを導入し、その後5Gに置き換えていく。

エリアを広げる計画を前倒し

楽天株式会社 代表取締役社長 兼 楽天モバイルネットワーク株式会社 会長 三木谷浩史氏

 こうした楽天モバイルのネットワーク構成に関して楽天の三木谷社長は「われわれの新しい取り組みは世界中の通信キャリアなどから注目を集めている。こうした構成を取ることでこれまでは携帯端末サイドでしかできなかったことがサーバー側でできるようになる。自動運転や、ドローン、さらには光ファイバーに変わるフィックスドワイヤレスの提供など新しい使い方が提供できるようになる」と述べ、既存の通信キャリアにはできないそうした5GNR SAにいち早く対応することのメリットを活かしたサービスを提供していきたいと強調した。

 もちろん、すでにある4GのインフラをNSAで5Gへ展開する既存の通信キャリアはカバレッジの点で明らかに有利であり、楽天モバイル側はそこが弱点になるだろう。そこはKDDIへのローミングでカバーする計画だが、ローミングしてしまえば、そうした5GNR SAの基地局のメリットは享受できない。その意味で、既存のキャリアがSAへ移行するのが先、楽天モバイルがSAの基地局を広がるのが先か、という競争になる可能性は高い。

 ローミングが必要なくなるようにカバレッジを広げる計画について楽天モバイルの山田社長は「7年と言わずかなり前倒ししてやっていきたい」と述べ、自社ネットワークを計画を前倒しして充実させていく計画だと強調した。