Clojure 入門者による【チャットボットづくり】 Part1
最近 Clojure にハマっています。JVM 上で動くバイトコードにコンパイル可能な Lisp 族で、 なんか書いてて楽しい です。とりあえず作者である Rich Hickey のアツい一言をご覧ください(参考1・参考2)。
※元記事がリンク切れになってしまったので、意訳文章を削除しました。
というわけで、そんな Clojure を使って以前 Python で書いたチャットボット sandmark/unmo を再実装してみました。 勉強用なので間違った説明がある危険があります。ツッコミ歓迎です。 完全なソースコードは sandmark/unmo-clojure にあります。
目次
準備
- Leiningen 2.8.1
- Clojure 1.10.0
- 1.8 でもいいんだけど、見やすくなったエラーメッセージを試したかった
- Spacemacs (develop)
- bigml/sampling
- 思考エンジンの選択に使うサンプリングライブラリ。統計とかそういう分野で使うっぽいけど、他に確率を指定してランダム選択するものが見つからなかった…
- fipp
- 辞書ファイルの
pprint
に使う。組み込みのpprint
は動作が遅かった
- 辞書ファイルの
- Sudachi
まずはプロジェクトを作って、 project.clj
の編集:
$ lein new app unmo $ cd unmo/ $ edit project.clj
(defproject unmo "0.1.0-SNAPSHOT" :description "A japanese legacy chatbot" :url "https://github.com/sandmark/unmo-clojure/" :license {:name "Eclipse Public License" :url "http://www.eclipse.org/legal/epl-v10.html"} :repositories [["Sonatype" "https://oss.sonatype.org/content/repositories/snapshots"]] :dependencies [[org.clojure/clojure "1.10.0"] [bigml/sampling "3.2"] [fipp "0.6.14"] [com.worksap.nlp/sudachi "0.1.1-SNAPSHOT"]] :main ^:skip-aot unmo.core :target-path "target/%s" :profiles {:uberjar {:aot :all}})
あとは lein repl
するか、Spacemacs 上で project.clj
を開いて M-RET '
して cider-jack-in
コマンドを呼び出します。Lisp 系の言語は REPL 駆動開発 が一般的で、エディタだけで完結できる後者をおすすめします。
respond 関数を作る
Python 版では、5つの思考エンジンを5つのクラスとして実装していました。Clojure では「特に Java と相互運用する必要性がない限り、クラスやそのインスタンスを生成するメリットはない」くらいの意気込みで良いみたいです。実際にはクラスを実装する手段が5つもあるのですが、いずれも Java との互換性を確保するためのものであったり、低レベルな処理で使うもの。これには理由があって、Clojure のスタンスはこんな感じ。
オブジェクト指向は「クラス」という名の新しいデータ型をわざわざ定義させるくせに、そのインスタンスの扱いがお世辞にも得意とは言えない。オブジェクトが数万格納されているコレクションの走査やコピーには大きなオーバーヘッドが発生する。オブジェクトそのもののサイズが可変である上、メソッドの実装によってはもっとひどいことになる。
Clojure は「10 種類の型を扱う 10 個の命令よりも、1 種類の型を扱う 100 個の命令があるほうがはるかに良い」という格言通り、基本的にユーザーに新しいデータ型を定義させない。そのかわり、高機能かつ爆速なデータ型を用意してあるからそれを使え。後方互換性を維持し、アップデートでさらに便利で速いものになる(予定)。
というわけでクラスではなく関数を作ります。 unmo/src/unmo/core.clj
にこう書きます。
(ns unmo.core (:gen-class)) ;; 引数によって動作を変えるマルチメソッドを定義する ;; この場合、与えられた Map の :responder の値で分岐する (defmulti respond :responder) ;; :responder :what を指定されたときの挙動 ;; 入力(:input)の末尾に "ってなに?" と付加し、 ;; その結果を :response キーに設定して返す (defmethod respond :what [response] (assoc response :response (str (:input response) "ってなに?"))) ;; :responder の値が指定されなかった、または実装がないときの挙動 ;; 定義していない responder が指定されたときは「存在しない」という例外を投げ、 ;; 指定されなかったときは「指定しろ」という例外を投げる。 ;; -> let は左辺 responder に右辺 (:responder response) を束縛する式 ;; -> Clojure では Java の例外クラスを流用するのが定番らしい (detmethod respond :default [response] (throw (IllegalArgumentException. (let [responder (:responder response)] (if responder (str "存在しない Responder です (" responder ")") (str "Responder を指定してください"))))))
書いたら SPC m s B
で評価・ CIDER バッファに移動し、次の式を評価します。
unmo.core> (respond {:responder :what :input "てすと"}) {:input "てすと", :responder :what, :response "てすとってなに?"}
respond :what
の引数 response
の中身は {:responder :what :input "てすと"}
ですので、戻り値を見る限りちゃんと :response というキーが追加されています。ただ、ちょっと表示が長いので :response
だけを取り出してみましょう。Cider では *1
というシンボルが「直前に評価された式の値」を意味します。
unmo.core> (:response *1) "てすとってなに?"
:response
に束縛された文字列だけを取り出すことができました。Clojure の Map オブジェクトからは、 (キー map-object)
または (map-object キー)
とすることで値を取り出すことができます。
この形は関数の評価と似ていませんか? 実際そうなのです。Clojure で呼び出し可能なオブジェクトは関数だけではなく、多くのデータ型それ自体が呼び出し可能となっています。上記ではキーを呼び出し、Map を引数に指定しています。この仕組みは IFn
と呼ばれるもので、 IFn
が実装されているデータ型ならすべて関数のように呼び出せます(これは (ifn? {})
や (ifn? :keyword)
などとすることで確認できます)。
あるいは get
関数を使って (get *1 :response)
と書くこともできます。どちらを採用するかの基準は ClojureStyleGuide に書いてありました(いま調べた)。
また (respond {:responder :not-found})
や (respond {})
を評価して、例外が正しいメッセージとともに投げられているかどうか確認してみてください(ポップアップは q
キーで閉じることができます)。
リファクタリング: スレッドマクロ
ところで respond :what
は処理を展開すると以下のようになります。
(assoc response :response (str (:input response) "ってなに?")) => (assoc response :response (str "てすと" "ってなに?")) => (assoc response :response "てすとってなに?") => (assoc {:responder :what :input "てすと"} :response "てすとってなに?") => {:input "てすと", :responder :what, :response "てすとってなに?"}
ちょっと括弧が多いです。 「式の最後に閉じ括弧がいっぱいあるのはいいけど、式の途中に混ざってると読みにくい」という人間の心理だか工学だかが発動するので、他の言語では禁呪とされているマクロを使ってどうにかします。手でどうにかしても良いのですが、Spacemacs では自動的に整形してくれます。
(assoc...
の(
にカーソルを持っていって、SPC m r t l
(あるいはM-x clojure-thread-last-all
) を実行
すると
(defmethod respond :what [response] (->> "ってなに?" (str (:input response)) (assoc response :response)))
のように変換されたはずです。これは評価時に先ほどのコードに再変換されるのですが、人間の目には見やすいように思えます。例えば (loop (print (eval (read))))
よりも (->> (read) (eval) (print) (loop))
と書いてあったほうがずっと読みやすいはずです。これは スレッドマクロ と呼ばれるもので、他にも ->
や as->
などがありますが、ここでは詳しく触れません。EmacsLisp にも輸入されているようで、一度慣れると病みつきになります。私はこのおかげで Ruby のメソッドチェインや Haskell の $
関数が恋しくなくなりました。
リファクタリング: 分配束縛 (destructuring-bind)
CommonLisp 本である On Lisp では『構造化代入』と訳されていましたが、Clojure 界隈では『分配束縛』と言うみたいです。 respond :default
では (:input response)
という形で :input
の値を取り出していますが、要はこれを引数の部分でやってしまおうという機能。難しく聞こえますが、やってみると簡単です。
;; :responder の値が指定されなかった、または実装がないときの挙動 ;; 定義していない responder が指定されたときは「存在しない」という例外を投げ、 ;; 指定されなかったときは「指定しろ」という例外を投げる。 ;; -> Clojure では Java の例外クラスを流用するのが定番らしい (detmethod respond :default [{:keys [responder]}] (throw (IllegalArgumentException. (if responder (str "存在しない Responder です (" responder ")") (str "Responder を指定してください")))))
response
引数と responder
キーワードが消え、結果として let
もなくなりました。代わりに {:keys [...]}
が追加されています。
{:keys [responder]}
というフォームは、引数として受け取った Map オブジェクトの :responder
キーに束縛されている値を、同名の変数( responder
)に束縛せよという意味になります。 responder
への束縛を引数フォームでやっているため let
が消え、全体の式としてはインデントが浅くなって読みやすくなっている……気がするような、しないような……。
スタイルガイドにまだ目を通していないので微妙なラインなんですが、短く一度しか使われない関数本体のために分配束縛するのは、逆に読みやすさを損ねているとも言えます。とりあえず私は慣れだと思って今のところは積極的に使っています。
同様に respond :what
も分配束縛が使えますので、調べて手を加えてみてください。
次回はメインループを実装するよ
思いのほか長くなったので疲れました。今回はこのくらいで。続きます。たぶん。