コンピューターの登場でビジネスは大きく変化した。それまで紙書類で行っていた作業をデジタル化することで、業務効率が大幅に向上したのは改めて説明するまでもない。だが、数年後はデジタル変革が飛躍的に進む可能性がある。それが量子コンピューターだ。

すべての物質を構成する原子、そして原子を構成する電子は原子核などを扱う量子力学的観点からコンピューティングを実現しようという試みはロシア数学者のYuri Manin氏が1980年がに唱したのが始まりだ(それ以前にRichard Feynman氏らが提唱した物理量を有限にする定式化を祖とする意見もある)。その後、日本人を含む多くの研究者が量子コンピューティングに取り組んで来たが、突如カナダの「D-Wave」が2011年に登場した。

D-Waveの量子コンピューター「D-Wave 2000Q」

当初D-Waveには疑いのまなざしが向けられていたものの、NASAおよびGoogleが2015年12月に、「従来のコンピューターに比べて、1兆倍高速だ」と発表したことを契機に、その実力が広く知られるようになった。D-Waveは量子アニーリングと呼ばれるアルゴリズムを採用し、何億何兆通りのパターンから解を導き出す「組み合わせ最適化問題」など特定の演算手法に対して、一般的なコンピューターを大幅に上回る。そのため各IT企業は自社のR&Dで研究を重ね、ここ数年は次々と量子コンピューティング用チップを発表してきた。

Intelは2017年10月に17量子ビットのチップ試作製造に成功し、Googleも自社製量子コンピューター向けに約40量子ビットを可能にするチップを2017年中に開発するという。Microsoftも2017年9月に量子コンピューター用チップの開発および開発環境を取りそろえることを発表しているが、量子コンピューティング分野で一歩先を抜きん出ているのはIBMだ。2017年5月にIBMは16および17量子ビットプロセッサーを発表し、IBM Quantum Experienceを通じて商用利用を可能としている。

2017年3月に始まったIBMの量子コンピュータープロジェクト「IBM Q」

IBMは量子コンピューターを活用することで、機械学習などAI(人工知能)の加速化や科学的発見、セキュリティの強化と並べてビジネスの最適化が実現可能だと述べている。サプライチェーンや物流、金融データのモデル化やリスク分析などに用いる最適化問題に対し、これまでより優れたソリューションが提供可能になるという。

とある関係者は5年程度で段階的に量子コンピューターの実用化が進むと述べており、これまでもビジネスモデルに大きな影響を与えかねない。今から先進性を自負する企業は今からプロジェクトチームを組み、量子コンピューターの実現が自社に及ぼす影響を調査すべきだ。

阿久津良和(Cactus)