機械学習で「雑草だけに除草剤」──米農機大手ジョンディアは、新興ロボット企業の買収で農業を進化させる

機械学習を利用して作物と雑草を区別し、雑草だけにピンポイントで除草剤を噴射するロボットを製造する新興企業ブルーリヴァーを、米大手農業機械メーカーが買収した。世界的農機メーカーが認めた驚くべき技術を、動画とともに紹介する。
機械学習で「雑草だけに除草剤」──米農機大手ジョンディアは、新興ロボット企業の買収で農業を進化させる
PHOTOGRAPH COURTESY OF BLUE RIVER TECHNOLOGY

雑草にとっては嫌なニュースだ。望ましくない植物を特定し、高い精度で除草剤を噴射して枯らすことができるロボットを製造している2011年創業の新興企業ブルーリヴァー・テクノロジー[日本語版記事]が、「ジョンディア」ブランドのトラクターで知られる1837年創業の大手農業機械メーカー、ディア・アンド・カンパニーに3億500万ドル(約342億円)で買収されたのだ。

ディア・アンド・カンパニーはGPSを利用して、農地における農機の移動を数センチの精度で行える技術をすでに提供している。同社インテリジェント・ソリューション・グループの幹部役員であるジョン・ストーンによると、ブルーリヴァーのコンピューターヴィジョン技術は、ディア・アンド・カンパニーの機械が作業対象の作物を確認して理解するのに役立つという。「個々の植物に対応することにより、農家にとって多くの経済価値が生まれます」とストーンは説明する。

今回の買収は、農業においてハイテクへの要求が高まりつつあることを示している。多くの企業が農家の支援策として、ドローンを使って作物のデータを収集し、散布などの作業計画を作成できるようにしている。ブルーリヴァーの技術は、作物に近い地上で判断が下せるため、生産性の点でより大きな効果を得られると、ストーンは述べる。

農薬などの化学薬剤は従来、対象を確認することなく、農地全体または作物全体に散布されている。これに対してブルーリヴァーのシステムは、必要なところだけに薬剤を“当てる”ことができる。

ブルーリヴァーのロボットは、従来の散布機械と同様、通常のトラクターの後部に取り付けられて牽引される。ロボットにはカメラが搭載されており、機械学習ソフトウェアを利用して作物と雑草を区別し、望ましくない植物に自動散布装置が薬剤を当てる仕組みだ。

同社の最初の製品である「LettuceBot」(レタスボット)は、すでに米国のレタス生産の約10パーセントに相当する畑に導入されているという。生育途中のレタスの畑で使用され、雑草だけでなく、小さすぎるレタスや、ほかのレタスの上に重なって成長しているものなども“攻撃”の対象となる(下の動画を参照)。

VIDEO COURTESY OF BLUE RIVER TECHNOLOGY

ブルーリヴァーは、綿農家を対象にした第2のシステムの商業販売を18年に予定しており、17年に入ってそのテストを行った。このシステムでは、切手ほどのサイズの範囲に除草剤を精密に噴射して雑草を退治できる。同社で新技術の責任者を務めるウィリー・ペルによると、除草剤の使用量を90パーセント減らせることが確認されているという。

従業員数が約60人のブルーリヴァーは、買収後も独立したブランドとして、拠点であるカリフォルニア州サニーヴェールで業務を続ける。現在の技術を基に、大豆やトウモロコシなどほかの作物を対象にしたヴァージョンの開発を計画していると、ペルは述べる。さらに、同社のコンピューターヴィジョン・ソフトウェアを、収穫や種まきの機械にも応用して、例えば農地全体における「土の塊のサイズ」やトウモロコシの苗の大きさの違いに対応できるようにしたい考えだ。

TEXT BY TOM SIMONITE

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO